東京地方裁判所 平成元年(ワ)6943号 判決 1990年10月31日
原告 野村隆秋
被告 新妻憲治
株式会社ノビト
右代表者代表取締役 野口仁也
右被告ら訴訟代理人弁護士 浅香寛
下平担
安部陽一郎
増村裕之
被告 板倉賢二
右被告訴訟代理人弁護士 関本哲也
主文
一 被告新妻憲治は、原告に対し、別紙物件目録記載三の建物を収去して同目録記載一の土地を明け渡せ。
二 原告に対し、被告株式会社ノビトは、別紙物件目録記載四の建物部分を収去して、被告板倉賢二は、同建物部分から退去して、それぞれ同目録記載二の土地を明け渡せ。
三 被告新妻憲治は、原告に対し、平成元年五月一七日から第一項の土地明渡ずみまで一か月一万一〇〇〇円の割合による金員を支払え。
四 被告株式会社ノビト及び被告板倉賢二は、原告に対し、各自、平成元年五月一七日から第二項の土地明渡ずみまで一か月六二二〇円の割合による金員を支払え。
五 訴訟費用は被告らの負担とする。
六 この判決は、第一項ないし第四項につき仮に執行することができる。
理由
一 ≪証拠≫と弁論の趣旨によれば、請求原因1の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
請求原因2及び3の事実は、当事者間に争いがなく、≪証拠≫と弁論の全趣旨によれば、請求原因4の事実が認められる。
二 そこで被告らの主張(抗弁)について検討する。
1 法定地上権の主張について
被告らは、本件一土地については本件三建物のため、本件二土地については本件四建物のため、それぞれ法定地上権が成立すると主張する。
ところで、本件のように、土地に設定された抵当権(根抵当権についても同じ。以下同じ。)が実行され、買受人となつて代金を納付しその所有権を取得した者が、地上建物の所有者と異なつた場合における法定地上権の成否については、一般的な場合のほか、土地についての最先の抵当権設定当時には地上建物が存在していなかつた場合であつても、その抵当権設定時において、すでに地上建物の建築工事が始まつており、近い将来における建物としての完成が外形的、客観的に予定される状況にあり、かつ、抵当権者が将来完成する建物の存在を予定し、土地についてはその建物の土地利用権の負担があるものとして評価したうえで、当該土地について抵当権の設定を受けた場合には、法定地上権の成立が認められるものと解される(完成した建物の所有者が土地の抵当権設定当時の土地所有者と同一でなければならないことなど、法定地上権成立のための他の要件を充足すべきことは当然である。)。しかし本件においては、≪証拠≫によれば、本件土地に最先の根抵当権が設定された昭和五八年二月一五日当時、本件土地上に本件三建物及び本件四建物の基礎の据付け工事がすでになされていたことが認められるものの、右根抵当権者である株式会社第一相互銀行(右銀行が本件土地についての最先順位の根抵当権者であることは、≪証拠≫により認められる。)が、本件土地を建物の土地利用権の負担があるものとして評価し、右根抵当権を設定したことについては、本件全証拠によるもこれを認めることができない(かえつて、≪証拠≫と弁論の全趣旨によれば、右銀行は、本件土地を更地として評価し、他の物件とあわせて、本件土地に極度額一億三〇〇〇万円の根抵当権を設定したものと解せられる。)。また本件においては、法定地上権成立の要件である抵当権設定当時の土地所有者と建物所有者の同一という点についても、≪証拠≫によれば、本件土地の最先の根抵当権設定当時の土地所有者は、訴外会社であるところ、本件三建物については、その建物登記簿である成立につき争いのない甲第三号証によれば、訴外会社が所有者になつたことは一度もなく、また本件四建物については、成立につき争いのない甲第四号証によれば、訴外会社に所有権保存登記がされていることが認められるものの、右甲第四号証と≪証拠≫によれば、訴外会社の建物所有権取得については、同建物の建築を請け負つた仲田勝男がこれを争い、当時の所有名義人に対し訴訟を提起し、同人の主張に沿つた和解が成立していることが認められるから、帰するところ、法定地上権成立の右要件については、本件三建物及び本件四建物のいずれに関してもこれを認めるに足りないというべきである(なお、被告らの次の留置権の主張は、本件三建物及び本件四建物は、訴外会社が所有権を取得したことがないことを前提に、仲田の取得した建物所有権が被告らに譲渡されたことにより、被告らが本件土地の占有を承継したと主張するものであり、法定地上権の主張とは、必ずしも一貫しているとはいえない。)。
したがつて、本件土地に法定地上権が成立するという被告らの主張は、いずれにしても失当である。
2 留置権の主張について
被告らは、本件土地につき被告新妻及び被告ノビトが留置権を有していると主張する。
しかし被告らの主張を前提としても、右被告らが本件土地について留置権を有するのは、被告ら主張の被担保債権のうち、土地に関するものとしての宅地造成工事代金についてのみであるところ、≪証拠≫によれば、仲田勝男は、訴外会社から本件土地上に建売住宅を建築することを請け負つたことが認められるけれども、それ以上に同人が本件土地についての宅地造成工事も請け負つたことについては、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。また、仮に、訴外会社と仲田の契約に本件土地の宅地造成工事が含まれていたとしても、その部分の工事代金額が不明であるほか、これが被告新妻及び被告ノビトに債権譲渡されたことを認めるに足る証拠はなく、また右被告らに譲渡されたその金額及び右被告らそれぞれの配分額についても、なんら主張、立証がない。
したがつて、その余の点について検討するまでもなく、被告らの留置権の主張は失当というべきである。
3 権利の濫用の主張について
被告ノビトは、同被告に対する原告の本件四建物の収去請求が権利の濫用にあたると主張する。
しかし、被告ノビトに本件二土地を占有する権原がないことは、以上認定のとおりであるところ、同被告の主張する事情をもつてしては、いまだ原告の前記請求を権利の濫用とすることはできず、他に本件の全資料を検討しても、同被告の右主張を肯認する事情を見出すことはできない。右主張も失当というほかない。
三 以上の次第であり、被告らの主張(抗弁)は、すべて失当であるから、結局のところ、原告の本訴請求はすべて理由があることになる。
よつて、原告の本訴請求をいずれも認容する
(裁判官 三輪和雄)